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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)9795号 判決 1993年5月20日

原告

小西喬也

被告

上月定子

主文

一  被告は原告に対し、金一三三三万三八六七円及びこれに対する平成二年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを九分し、その五を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成二年一月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(内金請求)。

第二事案の概要

本件は、原告が運転する自動二輪車(以下「原告車」という。)と被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とが交差点で出会頭に衝突し、原告が負傷した事故について、原告が被告に対して、自賠法三条に基づく損害賠償を請求したものである。

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

日時 平成二年一月一一日午後一時二五分ころ

場所 大阪府豊中市緑丘二丁目九番八号先交差点

態様 原告の運転する原告車と被告の運転する被告車とが交差点で出会頭に衝突し、原告が負傷した(以上につき争いがない。)。

2  責任

被告は、自賠法三条に基づき、本件事故に関して原告に生じた損害を賠償する責任がある(甲一、七、乙一の2、3、二、原告本人)。

二  争点

1  損害額(逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、弁護士費用)(原告は、逸失利益に関して、原告の年収が四八〇万円であり、労働能力喪失率が五〇パーセントであると主張するが、被告は、原告の年収が三六〇万円で、自賠法施行令二条別表一二級一二号の後遺障害があるのみであると主張する。)

2  過失相殺(被告は、被告が二度にわたつて一旦停止し、交差道路の安全を確認し、徐行して進行を開始したのに、原告が漫然と交差道路を直進しようとしたもので、原告には大きな過失があると主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一ないし四、七、乙一の2、3、二、四の1、2、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故状況

本件事故現場は、東西に伸びるセンターラインのない幅員約五・三メートルの道路(以下「東西道路」という。)と、南北に伸びるセンターラインのない幅員約六メートルの道路(以下「南北道路」という。)とが交差する信号機の設置されていない交差点である。また、本件事故現場付近の東西道路、南北道路の制限速度は、いずれも時速二〇キロメートルであり、本件交差点の東西道路側には、一時停止の標識が設置されている。本件事故現場付近は、平坦なアスフアルト舗装で、本件事故当時、路面は乾燥していた。さらに、本件交差点付近には民家の塀が設置されているため、本件交差点に向かつて南北道路を南進する車両、東西道路を西進する車両からは、いずれも左右の見通しが悪い交差点となつており、しかも、本件事故当時、本件交差点北詰付近の南北道路上の東端には駐車車両があつたため、より一層見通しが悪くなつていた。本件事故当時、被告は、被告車を運転して東西道路を西進し、本件交差点東詰の一時停止線付近で一時停止したが、右のとおり、本件交差点北詰付近の南北道路上に駐車車両があつたため、南北道路を本件交差点に向かつて南進してくる車両の有無が確認できなかつたことから、右一時停止地点から約二・四メートル西進した地点で再度停止し、右方を確認したが、南北道路を南進してくる車両はないものと判断し、再度停止地点から約三・四メートル西進した地点で、被告車の右前部と原告車とが衝突したのに気付き、急ブレーキをかけ、右衝突地点から約二・一メートル西進した地点で停止した。他方、原告は、時速三〇ないし四〇キロメートルの速度で原告車を運転して南北道路を南進し、本件交差点の手前に差しかかつた。その際、原告は、前記のとおり被告車が一時停止しているのを認めたが、そのまま停止しているものと判断し、同一速度のままで本件交差点を直進通過しようとしたが、被告車が前進したため、被告車の前部と衝突した後、原告車は転倒しながら右斜め前方に進行し、本件交差点南西角の住宅の塀に衝突して停止した。

2  原告の受傷及び治療経過

原告は、右肩肝骨骨折、右肩鎖関節脱臼、右第四、五肋骨骨折、左下肢挫創、左膝内側側副靱帯損傷、左下腿蜂窩職炎、左下腿皮下血腫の傷病名で本件事故当日から平成二年一月一七日まで緑ケ丘病院に入院し、以後、同年四月九日まで同病院に通院(実日数四三日)して治療を受けた。その後、原告は、右上腕骨骨折、右第四、五肋骨骨折、左下腿挫傷及び打撲傷、左肩挫傷の傷病名で、同年四月一一日から同年五月二三日までの間、神崎製紙診療所に通院(実日数一五日)して治療を受けた。さらに、原告は、右肩関節脱臼、右肩鎖関節脱臼、右肩峰突起骨折、右第四、五肋骨骨折、左下腿挫創、左肩挫傷、左腓骨神経不全麻痺の傷病名で、同年五月三〇日から同年一一月三〇日までの間、協立温泉病院に通院(実日数五一日)してリハビリ治療を受けた。協立温泉病院に通院中、右肩の可動域制限は徐々に改善したが、左腓骨神経麻痺の不全麻痺、知覚異常は改善しなかつた。そして、協立温泉病院の医師は、原告の傷害が平成三年一月一八日に症状固定したとの後遺障害診断書を作成した。右症状固定日と診断された当時、原告には、左肩の運動制限と疼痛、左下腿の知覚鈍麻と運動障害、衣服の脱着が不自由、履物が脱げ易い、左足関節の運動制限で物が引つかかり易い、洋式便所は可能だか和式便所は不便である、左下腿は知覚鈍麻のため熱傷を受け易い、正座が不能である、との自覚症状があつた。また、原告は、歩行中、足のつま先が持ち上げられないため、つま先が断差に引つかかるので、歩行には杖を使用している。

二  損害

1  逸失利益 一三九八万一〇八〇円(主張三〇二四万七六八〇円)

原告は、昭和一五年九月三〇日生まれ(本件事故当時四九歳)で、本件事故当時、土木、建築関係の請負斡旋、建築資材の販売及び斡旋を業とする株式会社洋光インダストリー(以下「訴外会社」という。)の代表取締役をしていた。訴外会社は、原告が昭和五九年に設立し、常勤役員は、原告とその妻だけで、その事務所は原告の自宅にある。本件事故当時の訴外会社における原告の日常の仕事は、営業活動のために毎日得意先を訪問するほか、工事現場に出向いて高所や足場の悪い場所にも立ち入つて、打ち合わせや指示をすることも多かつた。原告の運転免許は、本件事故で左足が不自由になつたので、自動二輪車については、免許更新時に更新を拒否され、普通自動車の運転免許については、オートマチツク車に限定された。訴外会社の事業年度は、九月一日から翌年の八月三一日までである。訴外会社の決算報告書に記載されている売上高は、昭和六二年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度が一億五六二九万二九七八円、昭和六三年九月一日から平成元年八月三一日までの事業年度が二億三三五二万三三九五円、平成元年九月一日から平成二年八月三一日までの事業年度が三億一七二二万九八五四円である。また、訴外会社の決算報告書に記載されている原告の役員報酬額は、昭和六二年九月一日から昭和六三年八月三一日までの事業年度、昭和六三年九月一日から平成元年八月三一日までの事業年度がいずれも年間三六〇万円、平成元年九月一日から平成二年八月三一日までの事業年度が年間四八〇万円である。また、原告の平成元年分の源泉徴収票には、原告の役員報酬支払額が三六〇万円と記載されている(甲六ないし八、乙三、七、八、原告本人)。

右認定事実によれば、原告は、本件事故当時、年間四八〇万円の役員報酬を得ていたと解され、また、訴外会社は、原告の個人会社で、原告が訴外会社の業務全般を中心的立場で担当しており、これに、訴外会社の前記売上高、原告の役員報酬額を併せ考慮すれば、本件においては、右四八〇万円全額を原告の年収として逸失利益を算定すべきである。そして、症状固定日であると解する平成三年一月一八日当時における原告の前記症状に、原告の前記労務内容を併せ考慮すれば、原告は、症状固定日当時の五〇歳から六七歳までの一七年間(中間利息の控除として一八年間の新ホフマン係数一二・六〇三二から一年間の新ホフマン係数〇・九五二三を控除した一一・六五〇九を適用)にわたり、二五パーセントの労働能力を喪失したと解するのが相当である。そうすると、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、一三九八万一〇八〇円となる。

2  入通院慰謝料 一〇〇万円(主張同額)

前記一1(原告の受傷及び治療経過)で認定した原告の受傷内容、治療経過に、本件事故状況、その他一切の事情を考慮すれば、入通院慰謝料としては、一〇〇万円が相当である。

3  後遺障害慰謝料 四五〇万円(主張五八三万円)

前記一1(原告の受傷及び治療経過)で認定した原告の症状固定日当時の症状、前記二1(逸失利益)の判示内容、その他一切の事情を考慮すれば、後遺障害慰謝料としては、四五〇万円が相当である。

4  弁護士費用 一二二万円(主張三〇〇万円)

原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては、一二二万円が相当である。

三  過失相殺

前記一1(本件事故状況)で認定したところによれば、被告は、本件交差点の手前で一時停止の標識に従つて一時停止したものの、本件事故現場は左右の見通しの悪い交差点であり、しかも、本件事故当時、本件交差点付近に駐車車両があつたため、一層見通しが悪くなつていたのであるから、右方道路から進行してくる車両の有無に十分注意して進行すべきであつたにもかかわらず、右方道路から接近してくる原告車を見落として本件交差点を直進通過しようとしたため、原告車と衝突したもので、被告の過失は大きいが、他方、原告も制限速度を時速一〇ないし二〇キロメートル程度超過した速度で、右のとおり見通しの悪い本件交差点を直進通過しようとしたもので、その際、本件交差点付近で一時停止している被告車がそのまま停止しているものと軽く考えて右速度のままで走行を続け、前進してきた被告車と衝突して本件事故を発生させた点で過失があるといわなければならず、右の諸事情を考慮すれば、本件事故発生について、被告には六五パーセントの、原告には三五パーセントのそれぞれ過失があると解される。そうすると、一九四八万一〇八〇円(前記二1ないし3の損害合計額)に、損害の公平な分担の見地から、本件事故に関して被告側が支払つた緑ケ丘病院における治療費一一三万三六八〇円(乙六の3)、神崎製紙診療所における治療費四万二七六〇円(乙六の4)、協立温泉病院における治療費三九万一六六〇円(乙六の1、4)の合計一五六万八一〇〇円(なお、被告主張の伊藤病院における治療費二万一一五〇円を認めるに足りる証拠はない。)を過失相殺の対象となる金額に加算し、右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、一三六八万一九六七円となる。

四  以上によれば、原告の請求は、一三三三万三八六七円(前記過失相殺後の金額一三六八万一九六七円に前記二4の弁護士費用一二二万円を加えた一四九〇万一九六七円から前記既払治療費一五六万八一〇〇円を控除したもの)とこれに対する本件交通事故発生の日である平成二年一月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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